乙女に映しておぼろげに

TaM研究所から1993年に発売された18禁パソコンゲーム、および同一の背景世界を舞台とするゲームのシリーズ。
略称「おとにに」
ジャンルは近未来SFアドベンチャー。

199X年に外宇宙より飛来した外敵との戦争状態が日常となった時代。
国防軍の一部隊に、おおよそ場に似つかわしくない少女・れいん(名前変更可)が配属されたところから物語は始まる。
遺伝子操作によって作られた人造兵士の試作体である彼女をいかに育てるか、というゲームであり、育成・交流主体のアドベンチャーパートと戦闘パートを繰り返してゆくこととなる。
戦闘パートはかなり手応えのある作りになっており、戦闘結果がその後のイベント発生条件にも絡むため、
「使おうと思って起動したのに戦闘前のセーブしかない」という悲鳴が草の根BBS上に散見されていた。
(要望も多かったらしく、後にアペンドディスクでセーブデータ作成数が増え、アルバムモードが実装された)

この種のゲームの常として魅力的なサブヒロイン達も多数存在するのだが、彼女達を攻略しようとすると(正確にはれいんを放置すると)れいんが他の男性隊員と関係を持つなど男性遍歴を重ねてくるというシナリオになっていた。
箱裏のキャッチコピー「彼女は誰にでも微笑み、愛嬌を振りまき、媚びてみせる。そして……」で予想していたプレイヤーもいたものの、賛否両論となる。
サブヒロイン達も戦況と接し方で2~3程度の分岐を持ち、れいんに至っては育成ゲームらしい多数のエンディングがあるという圧倒的なボリュームとディスク枚数を誇る。

シナリオ制御部分が未圧縮のテキストファイルであったこと、グラフィックやサウンドも未圧縮でディレクトリ内におさめられていたことから、シナリオの書き換え・グラフィックの差し替えなどが草の根BBSなどを中心に流行。
登場人物の口調を変える・れいんの男性遍歴フラグ管理部分を削除するなどから始まり、登場人物の差し替えや追加、果ては本編とは独立した別のシナリオを一本作ってしまう者まで現れた。
制作陣がそれに対して、「れいんの身も心も、ユーザーの皆さんが望むように弄りつくしてください」とコメントしたことにより私家版シナリオ・画像差分作成は加速。
アペンドディスクや続編でも、ユーザーがその気になればシナリオ一つでっち上げられる造りは維持され、後年には「早すぎるMOD文化」「エロゲツクール」などと言われたりもしている。

シナリオを書き換えて自分好みのれいんを創り出す層と、頑なに無改造のれいんを自分につなぎ止める遊び方を好む層、NTRを楽しむ層など多種多様な紳士を生み出したゲームとして、18禁ゲーム史に燦然と名前を刻んでいる。

家庭用ゲーム機に移植もされているが、表現の婉曲化を除いてはほぼそのままの移植となった3作の評価は低い。

シリーズの歩み

1993『乙女に映しておぼろげに』PC9801・DOS/V
1994『乙女に映しておぼろげに・アペンドディスク』PC9801・DOS/V
   れいんが別勢力に配属されたシナリオ2本と、民間人少年がれいんを拾って戦乱に巻き込まれるシナリオが追加される。
   また、本編未収録の没グラフィックが大量に収録されており、追加素材集なる別名で呼ばれることまであった。
  『乙女に映しておぼろげに・アペンドディスク2』PC9801・DOS/V
   れいんが別勢力に配属されるもの・複数勢力でのれいんの争奪戦・民間人少年と共にファンタジーな異世界に飛ばされると3本のシナリオが追加される。*1
   追加シナリオの没イラストが大量に収録されており、素材集っぷりも健在。
  『乙女に映しておぼろげに++』PC9801・DOS/V・X68000・FM TOWNS
   X68000版・FM TOWNS版を出すにあたって、先行の版でもアペンドディスクの内容を全収録したものが再生産された。
1996『The Girl Who Was Plugged in~乙女に映しておぼろげに2~』PC9801・DOS/V・X68000・FM TOWNS
   遠い未来を舞台に、旧文明の生体兵器生産プラントの争奪戦を描いた続編。
   前作の敵対種族とその混血がキャラクターとして登場する。
   れいんの設定の一部が変更され、生産プラントの設定変更と称した外見カスタマイズ要素が実装された。
   リリース時点で前作のアペンド適用後並のボリュームとなってユーザーを驚かす。*2
  『乙女に映しておぼろげに』SFC・SS・PS
   弄れないれいんたんなんてれいんたんじゃないよ派の総スカンを食らったものの、バニラ派からの評価はそれほど低くはない。しかしやはり、メインヒロインが性奔放であることは家庭用ゲームではマイナス評価が強かったようである
1997『乙女に映しておぼろげにfor Win』windows
1998『The Boy Who Was Plugged in~乙女に映しておぼろげに2アペンドディスク~』PC9801・DOS/V・X68000・FM TOWNS
   主人公とれいんの性別選択を可能にする追加データ集。*3
   初回限定版にはパッケージイラストを再現した女主人公と少年型れいんのフィギュアが付き、現在非常に高額なプレミアが付いている。
   BLゲーム市場への参戦を試みたが、データ集と本体を新規購入は当時の女性ユーザーにはハードルが高かったようで、もっぱら従来ユーザーに女主人公目当てで買われていた模様。
   デスクトップ上をきまぐれにれいんがうろつき歩くデスクトップアクセサリがおまけについており、筆圧対応のペンタブで撫でると強さで反応が変わるという無駄機能が話題に上る。
  『The Girl Who Was Plugged in~乙女に映しておぼろげに2~for win』windows
   アペンドディスク適用済。乙女ゲー・BLゲーとしての需要を開拓する。
1999『The Girl Who Was Plugged in~乙女に映しておぼろげに2~』DC
   アペンドディスク適用済。加えて簡易シナリオカスタム機能を搭載し、ビジュアルメモリでカスタムシナリオのやりとりができる・DCブラウザで専用サイトにカスタムシナリオのアップロードとダウンロードができる・れいんを連れ歩けるなどDCならではの機能も実装して、移植版としてはかなりの高評価を得る。
   専用サイトにアップロードされたシナリオはパソコンからも開けたため、一度アップロードしたシナリオをパソコンで書き換えてパソコンから再アップロードという手順を踏めばPC版に近いシナリオ書き換えも可能という裏技が判明してから大きく売り上げを伸ばし、10万本を越える売り上げを叩き出した。*4
2003『乙女に映しておぼろげにdecennium』windows
   10周年記念パック。二作を同一システム上でリメイク。オリジナル版の没グラフィックも書き下ろしリメイクで収録され話題を呼ぶ。
   制御命令文の追加はあったものの第一作の私家版シナリオをそのまま走らせることが出来、潜伏していた私家版シナリオ職人が次々立ち上がって新作を発表。そんな中、草の根BBS時代に最も有名だった大型シナリオ作成者の音沙汰がなく消息を案じられる。
2007『乙女に映しておぼろげにポータブル』PSP
   decennium収録の第一作を下地に、システムを大きく変更したもの。
   戦闘パートを排して育成結果で自動的に戦況が変化するようになり、主人公がれいんに様々なことを教えて「おでかけ」させて育てるゲームとなった。
   「おでかけ」でれいんを通じてNPC達の人間模様を観察、間接的に介入するという要素もあり、主人公のサブヒロイン攻略*5・れいんのNPC攻略*6・NPC同士の縁結びなど、できることは多様であった。
   音沙汰のなかった有名私家版シナリオ作者の名がスタッフロールにあったことで旧作ファンを驚かせた今作は、別ゲー呼ばわりされつつも別システムと割り切れば出来は良いというのがおおよその評価である。売り上げも善戦したものの、当時携帯ゲーム機ソフト売り上げの基準線扱いされた他社機種代表作のスピンオフ作品に及ばず、その作品の主人公に宝石型貨幣で頬を張られるなど酷い目に遭わされる二次創作がちょっと出回った*7
   なお、発売直前のPSPマスコットキャラクターによるニュース配信コンテンツにて、黒猫と犬とロボットによる濃厚な作品語りが発生、ついていけない一般ユーザーを大量発生させた。
   本作ではれいんの頭の軽さに磨きがかかっており、近年の新規ユーザーのれいん像はこちらが基盤となっているといわれている。
2008『乙女に映しておぼろげに3D』
   15周年を飾るべく、満を持して発売された集大成的な新作。
   画像が3Dになり、カスタマイズ性が格段に上昇。キャラクター・小物などのモデルはフリー3DCGムービー製作ツールや洋ゲーMOD作成ツールへのコンバートも容易で、それらの作成目的で購入する新しい層を生み出した。*8
   過去作シナリオのリメイクに加え、戦国時代タイムスリップシナリオが追加され、時代物の素材が大量に追加された。
   とうとう過去作用の私家版シナリオをそのまま走らせることはできなくなったが、公式サイトからコンバートツールをダウンロードできたため不満は発売前の予想に比して少なかったようである。
   新旧紳士どもは相変わらずで、匿名巨大掲示板には「安価でれいんたん弄るスレ」なる即興シナリオ作成スレッドが定期的に立つ。

2010『うたう! れいんたん』win/mac
  『しゃべる! れいんたん』win/mac
   れいん仕様のボーカロイド・ボイスロイドである。
   CDドラマやアニメでは饒舌に喋り歌うれいんだが、システムの都合上本編ではSEレベルのちょっとした台詞・声が限度である。
   私家版シナリオもどうにかしてフルボイスにできないか思案したスタッフの悪戦苦闘の産物。
   未だ本編に組み込まれてこそいないが、これが売れたらゲーム内に搭載できるんじゃないかと期待されている。*9
   動画共有サイトのゲーム実況などでよく使われている。

2012『乙女に映しておぼろげに~The Girl Who Was Plugged in~』3DS
  『乙女に映しておぼろげに~The Boy Who Was Plugged in~』3DS
   第二作を下敷きに設定の一部を変更した作品。
   争奪戦を主軸に置いたボードゲーム*10となっており、PSP版以上にユーザーを驚かせた。
   容量の都合上、れいんの性別で二本のソフトに分割して発売せざるをえなかった。
   二本とも、主人公の性別は選択可能。
   シリーズ初のマルチプレイ要素に加え、好みのカスタマイズを施したれいんをARカードを使って3D写真撮影できる機能を実装。こちらめあてに本体ごと買うファンも現れる。*11
   別名“手乗りれいん”

おとににシナリオ紹介

国防軍シナリオ
リメイク以降は第一シナリオ・基本シナリオとも。
前項でゲーム紹介として挙げているシナリオである。
シナリオの序盤が、スクリプター向けの解説コメントをそのまま残していたため、改変入門用にも非常にわかりやすい作りになっていた。
リメイクによる仕様変更に伴ってコメントまでアップデートされているという親切設計。

派遣軍シナリオ
民間自警団シナリオ
侵略者シナリオ
第一作アペンドディスク収録のシナリオ。それぞれ、第一シナリオの別視点ものという位置づけになっている。
世界設定の補完としてこれらを好む層も多い。
侵略者シナリオは、登場する敵が他シナリオNPCであったため、好き嫌いは分かれたようだ。

少年シナリオ
第一作アペンドディスク収録。
れいんを拾った民間人の少年が戦乱に巻き込まれてゆくボーイミーツガールもの。
他シナリオよりも日常パートの比重が大きいが、戦況の悪化による雰囲気の変化も大きなシナリオであった。
ネタが思いつきやすいためか、これを下敷きにした私家版シナリオは数多く、第一シナリオに並ぶ。

社長シナリオ
第一シナリオの派生。
「社員がゲーム作りに専念出来るようにするための全部」を引き受けるTaM研社長は、基本的にゲーム制作に参加することはなかった。
しかし、社員の一人がよせばいいのに社長に一本シナリオを書かせちゃったのである。
「つまらんもんしか書けんぞー」と言いながら社長が上げてきたのは、れいんをおつかいに出して帰ってくるまで、それだけのシナリオだった。
ただし、お使いに出す前の選択肢でおつかいの内容は多岐に渡り、おつかい先も澪央市内の実在の場所をモデルに妙にディテールに凝って描写したものであった。
第一作時はアンケートはがき送付特典としてディスクで提供されたこのシナリオは、意外にも澪央市観光シナリオとしてウケてしまい、結果社長はおとにに新作のたびにれいんのおつかいをアップデートする羽目に陥ったのであった。合掌。*12

おとにに攻略メモ

・十四回殺し
第一作目(リメイク以降は基本シナリオと呼ばれる)における戦闘発生回数が十四回。
毎回の戦闘でれいんを死亡させる攻略方法がこう呼ばれている。
このゲームでは、キャラクターが死亡した場合復活などの救済手段は存在しない。
ただし、実験目的で量産されているれいんに限り、死亡しても代替個体が配属される。
能力と感情の初期化は発生するものの、戦闘要員の減少は発生しないのである。
最も多用されたのが、サブヒロイン攻略時に囮として出撃させることにより戦闘を有利に進める目的であろう。
高性能の防具で全身を固め迎撃率の高い射撃武器を持たせることによって、初期レベルのれいんでも瞬殺されずに済むため、
壁代わりに最前列に配置することはそれなりに理に適った戦術ではあった。
また、れいんの好感稼ぎに集中することで、戦闘が一度発生するまでの期間で好感度を初期状態からHシーン発生可能域まで上げることも可能なことから、
初体験イベントを15回発生させるために十四回殺しを実行するプレイヤーも少なからず存在する。
イラスト・模型系のSNSで有名なAl2O3氏がそのプレイスタイルで有名なプレイヤーで、れいんにとどめを刺した敵の攻撃方法に則った損壊状態に複製フィギュアを魔改造した「れいんの亡骸」シリーズがその種の嗜好の人々からの高評価を得ている。
匿名掲示板に「お前ら、二次元嫁も逃げることがありますよ」なるスレが立ち、「作業中うとうとしていたら聴いたことのない悲鳴*13が聞こえて押し入れと窓が5センチくらい開いてた。押し入れを調べたら未開封だったはずのフィギュアが一体無くなってる」というスレ主がレスに答えていくうちにAl2O3氏であることが判明したという逸話もある人物である。
この時、彼は「内側から破られた」未開封のブリスターと外箱の画像をスレッドに上げており、そこから若干オカルトめいたレスも続いたようだ。*14

ファンブックのスタッフ座談会より

S「女性の方が遺伝的に安定してる・成熟まで育てやすいから、試作体は女性で作られました。実用化されれば、男性を安定生産出来るように技術を進歩させてゆくんだろうと思いますが」
S「で、女性型を配備するんなら下衆な用途を考える奴もいるよねってことで、そっち方面で『不特定多数の男性に共有される存在として』都合のいい人格に育てられてます」
G「そんなものをメインヒロインに据えるとかひねくれてるよね」
S「いやいやいやいや、あの娘一筋でいれば独占できるんだよ?」
P「やっぱお前はひねくれてていやらしいよ。でなきゃ、量産のための卵子採取用に生殖能力自体はカットしなかったけど、初潮来るちょっと前で発育止めるとか思いつくか」
S「それだけじゃないよ!? 元は戦場に降り立った時のミスマッチ感狙った辻褄合わせだったんだよ?」
G・P・C「\\\ロリコンだー!!///」
S「ひでえ(笑)Gさんの描くロリっ娘が可愛すぎるのがいけないんだ!」
C「でも好みの要素にするための辻褄合わせでどんどんえぐい方えぐい方に持って行くど変態なのは事実じゃないですか(笑)パレアナ回路とか鬼かと思いました」
G「れいんの頭の軽さにそんな秘密が(笑)」
S「理不尽な命令でも素直にこなすには、深い思考とか持ってたら可哀想じゃないですか(笑)だから深い思考能力とか悲しむ感情とか取り除いちゃった。常に現状こそ普通で、普通は幸せ。そんな風に感じてる娘なんですよ」*15


*1 異世界でのれいんのキャラクタークラスはアルケミストであった
*2 てゆーか技術進んだら男性型の量産もあるよって言ってませんでしたっけまだ女型だったんですか
*3 恐ろしいことに服装は両者共通であった。ちゃんと腰回り描き分けて従来の服装の少年型用とか書き下ろすグラフィッカーまじ自重。男の娘れいんとか作れちゃったのである。
*4 最初20万本級に設定しようとして、現実のDCソフト売り上げ上位を見てそっと減らしました。PSOやバーチャロンを越えることはなさそうだということで。10万越えはダイナマイト刑事やソニックアドベンチャー2に並ぶくらい。美少女ゲー移植としては破格の売り上げなのです
*5 れいんの主人公への恋愛度をあげながらサブヒロインを攻略すると、れいんの育成結果によって様々な反応が見られる
*6 今作では意識してフラグを立てないとれいんが男性遍歴を重ねないのである。すばらしい。
*7 詳しくはチンクルラインで検索のこと。実はRBのれいんも、この作品の主人公には微妙なトラウマがあるようだ
*8 公式サイトのFAQに、「お前らゲーム作ってるんですかツール作ってるんですかはっきりしてください」とあり、ゲーム作るためにツール作ってたら存外使いやすかったから自分らだけで使うの勿体なくなったんだよ!わかれよ!という返答が返されている
*9 その一方、ボイス制御の命令文挿入を手間に感じるユーザーや、多様にカスタマイズできるれいんの声を単一の声優が演じることの違和感などでフルボイスに否定的なファンも多い
*10 現実のゲームにたとえるなら、クリーチャーが成長するカルドセプトという感じ
*11 二本総計ではあるが例の作品の売り上げを上回り、雪辱を果たしたといえる……いや圧倒的にGirlの方が売り上げ上だったんですけどね
*12 TaM研公式サイトに聖地巡礼の心得なんてページがあるのも社長のせいなんだ。
*13 「リメイク以降のれいんの声だがデータには無い悲鳴だった」とのこと
*14 とはいえ、最も多かったレスが「あなただったのか」「これまで死なせたれいんたんの供養行ってください」といった方向。なお、「お前のためにこれまで何人のれいんたんが死んだと思ってるんだ」という問いに作品・機種ごとの正確な人数を答えどん引き気味に平伏される微笑ましい一幕もあった模様
*15 あくまで作品中の設定であり、RBとしてのれいんの精神面はそこまで拘束されているというわけではない。しかし、基本人格として思考能力が低めであることは確かで、扱いやすさにつながっているとも言える